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大垣つれづれ

  • 近世畸人伝に載った人徳人永田佐吉
 異色の伝記集成『近世畸人伝』を編むことを考え付いたのは、著者、伴蒿蹊(ばんこうけい)ではなくて、彼の親友である画家、三熊思孝(もとたか)らしい。伴が序文にそう記している。美濃人としては、円空や芭蕉の異色の弟子、惟然(いぜん、ただし彼の故郷、関では「いねん」と呼ぶ)、北方(きたがた)の矢部正子などの生涯を載せた正編は寛政2年(1790)に刊行されて評判を呼んだ。さっそく続編をまとめることになり、正編の挿絵を描いた三熊がこんどは文章を担当するが、編集の途中、寛政6年(1794)に亡くなってしまう。当然、伴が校訂を行なったようで、その書き込みの跡が残されているが、この続編は京都では寛政10年(1798)10月、江戸では翌11年3月に刊行された。正編と同じく全5巻に80余名が取り上げられているが、石川丈山に始まる第1巻の4番目に登場するのが仏佐吉こと永田佐吉である。丈山が寛文12年(1672)、すなわち百二十年ちょっと前に亡くなったのに対し、佐吉は寛政元年(1789)に89歳での没だから、亡くなってまだ10年経っていない。故人のみを収録の本としてはスピードの人選である。
 仏佐吉の事蹟は修身の教科書に載ることで全国に拡まるが、その元はこの『畸人伝』への収録によると言って良い。佐吉は竹ヶ鼻(現羽島市竹鼻町)の出身で、両親をともに早く失い継母に育てられたが、この母に孝を尽くすこと、普通ではなかった。独立しての業としては当時竹ヶ鼻特産の綿の仲買を択んだが、人を疑うということを知らず、それゆえに人が皆、却って彼を助けて財をならしめた。しかるに彼はそれを少しも自らの利とすることなく、つねに不幸な人のため、世のために用いるばかりであり、これによって人々は彼を仏と呼んだ。『畸人伝』はこうした彼が生涯に遺したいろいろなエピソードを収めているが、そのひとつに、彼が諸国の神社仏閣巡拝の旅に出たとき、急な病に襲われ死線を彷徨った。そこでいま一度、母にまみえさせ給えと祈ったところ、病たちまちに癒えて無事に帰国出来たということがある。佐吉はこの感謝のしるしとして、江戸の鋳物師に釈迦像を発注、出来上がったものが今に残って、名鉄線羽島市役所駅近くの佐吉堂に祀られている。佐吉大仏と呼ばれるものである。実はこれを江戸から運んでくる船が遠州灘で難船、仏像の各部をいくつか海中に投じることで沈没を免れたらしい。それを知った佐吉は操船の難しい海に仏を鎮座させて良かったと言い、改めて不足部分を注文し直したという。いまに残る銘の寛延庚午(1750)は最初の鋳造の年であろう。鋳造の西村和泉守藤原政時は延宝以来の鋳物師の家柄、1720年生まれの4代目が制作の指揮を執ったのだろうか。近くの大仏児童公園には大垣出身の梵語学の泰斗、南条文雄(ぶんゆう)が文を撰した佐吉の頌徳碑が立っている。また佐吉堂入口には、長良川の大森の渡船場の堤に在った「是より西へ下りて大垣へ、是より東へ下りて竹ヶ鼻へ」と彫られた道標が移されている。橋を整えたり道を整備したりした佐吉が自らの名を出すことなく立てたものである。
2017.5.29

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